2015年にリリースされたAvicii(アヴィーチー)のセカンドアルバム『Stories』。その中でも「Trouble(トラブル)」は、煌びやかなダンスミュージックの裏側にあった、ティム・バーグリング(Avicii の本名)という一人の青年の苦悩と、それでも人生を愛そうとする不屈の精神が色濃く反映された名曲です。

この記事を読んだらわかること

  • 「Beggar(乞食)」から「King(王)」まで、極端な経験を経て辿り着いた境地
  • 「Yellow brick road(黄色いレンガの道)」が象徴する、理想と現実の狭間での彷徨
  • 「完璧じゃないけど、この人生を愛している」という、Aviciiの切実な自己肯定

結論:迷いながら、傷つきながら。それでも「まだ半分」と言える強さの物語

「Trouble」は、Aviciiが得意とするアコースティック・フォークとエレクトロニック・サウンドの融合が完璧な形で結実した一曲です。歌詞の全編に流れているのは、成功の頂点に立ちながらも「自分自身を見失い、再び見つける(Losing myself just to find me again)」という孤独な闘いでした。

彼はこの曲を通じて、人並み以上の困難(Trouble)を経験したことを認めつつも、それ以上に多くの喜び(Joy)を受け取ってきたと振り返ります。故郷から百万マイル離れた場所にたどり着いても、まだ先には百万マイルの旅が続いている。ゴールを急ぐのではなく、プロセスの美しさを見つめようとする彼の姿勢は、現代を生きる私たちの心に深く響きます。




「Trouble」楽曲プロフィール(トラブル)

  • 曲名:Trouble(トラブル)
  • アーティスト:Avicii(アヴィーチー)
  • フィーチャリング:Wayne Hector(ウェイン・ヘクター)
  • 収録アルバム:Stories (2015)
  • ジャンル:Folk-House(フォーク・ハウス), Dance-Pop(ダンス・ポップ)
  • 作詞・作曲・プロデュース:Avicii, Wayne Hector ほか

光と影のストーリーズ:Trouble(トラブル)歌詞動画紹介


Avicii - Trouble (Lyric Video)

「Stories」の一部として:音楽で紡ぐ自己のアイデンティティ

この楽曲が収録されたアルバム『Stories』は、Aviciiが自身の音楽的な幅を広げようと格闘した記録でもあります。「Trouble」の素朴で温かみのあるメロディは、大観衆を熱狂させるDJとしての姿ではなく、一人のソングライターとしての彼の繊細な内面を映し出しています。

リリックビデオなどで見られる、旅を連想させる風景やロードムービーのような質感は、歌詞にある「Yellow brick road(黄色いレンガの道)」のイメージと重なります。一歩ずつ、踏みしめるように進むビートは、彼が歩んできた波乱万丈な道のりそのものなのです。

迷いの中に見つけた光:Trouble(トラブル)歌詞と和訳

自身の経験を対比させながら、人生の不確実性と、それを肯定する力を歌った深く内省的な歌詞です。一語一語に込められた、ティムの「心の声」を聴き取ってみてください。

[Verse 1]
I've been a beggar and I've been a king
I've been a loner and I've worn the ring
Losing myself just to find me again
I'm a million miles smarter, but I ain't learned a thing
I've been a teacher and a student of hurt
I've kept my word for whatever that's worth
Never been last, but I've never been first
Oh I may not be the best, but I'm far from the worst

どん底の乞食も経験したし、王様だったこともある
孤独に震える夜も、愛の証である指輪をはめた時もあった
自分を見失っては、また自分を見つけ出すことの繰り返しさ
百万マイル分賢くなったはずなのに、結局、何も学んじゃいない気がするよ
誰かに教えを説くこともあれば、痛みから学ぶ生徒でもあった
それがどれほどの価値があるかは分からないけど、約束は守ってきたつもりさ
ビリだったことはないけど、一番になれたこともない
ああ、最高とは言えないかもしれないけど、最低ってわけでもないんだ

[Chorus]
Oh I've seen trouble more than any man should bear
But I've seen enough joy, I've had more than my share
And I'm still not done, I'm only halfway there
I'm a million miles ahead of where I'm from
But there's still another million miles to come

普通の人が抱えるには重すぎるほどの困難も見てきた
だけど、十分なほどの喜びも見てきたし、身に余る幸せも手にしてきたんだ
まだ終わっちゃいない、ようやく半分まで来たところさ
故郷からは百万マイルも遠いところへ来たけれど
これから先も、まだ百万マイルの道のりが待っているんだ

[Verse 2]
I keep on searching for the city of gold
And I'm gonna follow this yellow brick road
Thinking that maybe, it might lead me home
I'm a million miles farther and a long way from home
I know that there's a plan that goes way beyond mine
Got to step back just to see the design
The mind fears the heart, but the heart doesn't mind
Oh I may not be perfect, but I'm loving this life

今でも「黄金の街」をずっと探し続けている
この「黄色いレンガの道」を辿っていくつもりさ
もしかしたら、これが家へと導いてくれるかもしれないから
家からは百万マイルも遠ざかって、ずいぶん長い道のりを来たけれど
自分の想像を遥かに超えた「大きな計画」があるんだって分かってる
全体像を見るためには、一度立ち止まって一歩引いてみなきゃいけないね
頭(理性)は心(本能)を恐れるけれど、心の方は気にしてなんかいないのさ
ああ、僕は完璧じゃないかもしれない、でもこの人生を愛しているんだ

[Chorus]
Oh I've seen trouble more than any man should bear
But I've seen enough joy, I've had more than my share
And I'm still not done, I'm only halfway there
I'm a million miles ahead of where I'm from
But there's still another million miles to come

普通の人が抱えるには重すぎるほどの困難も見てきた
だけど、十分なほどの喜びも見てきたし、身に余る幸せも手にしてきたんだ
まだ終わっちゃいない、ようやく半分まで来たところさ
故郷からは百万マイルも遠いところへ来たけれど
これから先も、まだ百万マイルの道のりが待っているんだ

[Instrumental Outro]

深読み:歌詞を読み解くキーワード解説

  • Beggar and King:極端な対比。社会的地位の浮き沈みや、精神的な豊かさと貧しさの激しい変化を象徴。
  • Losing myself just to find me again:「自分を見失い、また見出す」。Aviciiが生涯向き合い続けた、自己アイデンティティの探求。
  • Yellow brick road:「黄色いレンガの道」。映画『オズの魔法使い』へのオマージュ。理想の場所(エメラルドの市)へ続く道だが、同時に冒険と試練を意味する。
  • City of gold:黄金の街(エル・ドラド)。成功の象徴、あるいは心が真に安らげる究極の場所。
  • The mind fears the heart:「思考は心を恐れる」。論理的な思考(理性)が、時に本能的な欲求や感情(心)にブレーキをかけようとする葛藤。
  • Design:「設計図」「運命の全体像」。自分の小さな意志を超えた、宇宙的な、あるいは神的な大きな流れ。
  • Million miles:百万マイル。途方もない距離。これまでの歩みの凄まじさと、これからの道のりの果てしなさを強調。
  • More than my share:「分不相応なほど」「自分の取り分以上の」。自分の成功や幸福に対する、謙虚で少し戸惑い混じりの自己評価。
  • Halfway there:「まだ半分」。どんなに成功しても、人生という旅においては常に発展途上であるという意識。
  • Learned a thing:「何かを学ぶ」。経験を積んでも、人生の本質は常に謎に満ちているというパラドックス。

表現を支える語彙力:英単語解説

  • Loner:孤独を好む人。スターダムの影で彼が感じていた孤立感の表れ。
  • Word:約束、言葉。誠実に生きようとする彼の倫理観。
  • Bear:耐える、支える。背負いきれないほどの重圧。
  • Farther:さらに遠く。距離だけでなく、心理的な遠さも含む。
  • Design:計画、意図。人生を一つの大きなパズルのように捉える視点。
  • Perfect:完璧な。完璧主義に苦しんだ彼が、不完全さを肯定しようとした言葉。
  • Ahead:前方に。過去を振り返りつつも、未来を見据える方向性。
  • Student:生徒。学び続ける謙虚な姿勢。
  • Worth:価値。自分の行動がどれほどの意味を持つのかという問いかけ。
  • Wait:待つ。焦らずに時が来るのを待つ重要性。

曲の骨組みを知る:英文法解説

  • I've been a beggar...:【現在完了形(経験)】「〜だったことがある」。これまでの人生の多様な役割を網羅する表現。
  • Losing myself just to find...:【分詞構文】「自分を失いながら、再発見するために」。目的と付帯状況を同時に表す。
  • I ain't learned a thing:【口語の否定文】「何も学んでいない」。強い否定(anythingの代わりにa thing)で無力感を強調。
  • More than any man should bear:【比較級 + 助動詞】「人が耐えるべき量を超えて」。限界以上の負荷がかかっていたことを示す。
  • Gonna follow this road:【be going toの省略形】「この道を辿るつもりだ」。未来への断固たる決意。
  • Thinking that maybe...:【現在分詞の導入】「〜かもしれないと考えながら」。心の迷いや希望を添える表現。
  • Goes way beyond mine:【副詞wayによる強調】「私の(計画)を遥かに超えていく」。スケールの大きさを際立たせる。
  • Got to step back:【have got toの省略形】「一歩引かなければならない」。客観的な視点が必要であることを示す。

「Trouble」の背景:Aviciiが『Stories』で綴った「自分自身」という物語

2015年のアルバム『Stories』は、世界中のフェスティバルを席巻していたAviciiが、EDMというジャンルの境界線を押し広げ、自らの内面を深く掘り下げた意欲作です。「Trouble」は、その中でも最もパーソナルな楽曲の一つと言えます。

楽曲の共作者であるウェイン・ヘクターは、ワン・ダイレクションやウエストライフなど数多くのヒット曲を手掛けてきたソングライター。彼とAviciiのコラボレーションは、キャッチーなメロディの中に、ティムの心に巣食う孤独や、完璧を求めてしまうがゆえの苦悩を鮮やかに封じ込めました。

「人生を愛する」という、最も難しく、尊い挑戦

この曲の最も感動的なラインは、「僕は完璧じゃないかもしれない、でもこの人生を愛している(I may not be perfect, but I'm loving this life)」という一節です。

若くして莫大な富と名声を得たAviciiは、常に周囲からの期待やハードなツアースケジュールという「Trouble」に直面していました。しかし、この曲は決して絶望を歌っているわけではありません。どんなに遠くへ来ても(Million miles)、どれだけ痛みを味わっても(Student of hurt)、人生は続いていく。そして、その未完成で不完全な旅路そのものに価値があるのだという、彼なりの悟りが込められています。

ティム・バーグリングがこの世を去った後、この「まだ半分しか来ていない」というリリックは、多くのファンにとって切ない意味を持つことになりました。しかし、彼が音楽に刻んだ「人生を愛そうとする意志」は、今も世界中の人々に、自分の不完全さを抱きしめる勇気を与え続けています。

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